皆さん、愉しんでますか~?
凸凹フューチャーセンターのトシヤです。
発達凸凹に関する本は本当にたくさんあって、この本がベスト!ということは言えません。でも、もしかすると一冊の本が、生きづらさを感じている人の扉を開いてくれるかもしれない…という思いを込めて、本をご紹介します。
本の紹介
『MSPA(発達障害の要支援度評価尺度)の理解と活用』
船曳康子=著/勁草書房
本書は、診断ではなく支援を目的として、生活現場でのニーズを重視して開発された新しい発達障害の評価尺度「MSPA(発達障害の要支援度評価尺度)」についての理論と活用を解説した書物になります。
MSPAは、こだわり・睡眠リズム・反復運動といった支援の必要な特性とその程度をレーダーチャートを用いて視覚化し、当事者と支援者がそれを共有できるようにするということが大きな特徴となっています。
本書の前半で、MSPAの開発の意図と特徴について、開発者である筆者が詳細に説明しています。
また、後半では、開発段階から協力し、さまざまな現場でMSPAを取り入れた実践をしている方々が、実際の療育や特別支援教育などの現場におけるMSPAの活用方法について寄稿したコラムが掲載されています。
書評
トシヤがもっとも印象に残ったのは、後半部の、実際の療育や特別支援教育などの現場におけるMSPAの活用方法についてのコラムです。
当事者や家族、そして関わっている多数の支援者が、当事者の特性やライフステージ(幼児期~青年期)毎に抱える困り度を共有する重要性と、その際にMSPAを用いたときの効果について書かれていて、特に支援者の方には有益な情報になるのでは感じました。
また、MSPAに用いて当事者の特性や困り度を視覚化する過程で、所属などの垣根がなくなることで得られる共通理解、保護者と協働体制をとる意思確認、自己理解・自己肯定感の高まりなどの、開発時には意図していなかった機能がMSPAにあるのではと思いました。
引用とコメント
以下は書籍からの引用とコメントになります。
「⇒☆」から始まる箇所が引用に対するコメント文です。
(MSPAは;註)2016年4月1日から保険収載され、医療機関でMSPAによる評価を行う際に医療保険が適用されるようになったこともあり、今後広く一般の医療・療育へと活用されることが期待されています。
(ⅰページ)
⇒☆医療保険が適用されるなら、経済的的な困難を抱えることが多い当事者もMSPAを受けることが容易になっていますね。
MSPAは特性の個人差を視覚的に理解できるように工夫してあります。それを当事者の方やご家族、多職種にわたる支援者が共有することで、特性に対する共通理解を促し、現場への支援に活かすことができます。
(ⅰページ)
⇒☆当事者・家族・支援者が共通理解・共通言語を持てることに大きな意味があると思います!
(MSPAによって;註)支援の必要な特性とその程度を視覚化し、当事者と支援者がそれを共有できるようにするということが大きな特徴となっています。
(4ページ)
⇒☆凸凹フューチャーセンターでも、グラフィックファシリテーションを用いて、「話の視覚化(見える化)」を行っていますが、この「視覚化する」ということが、本当に当事者や支援者の理解とその共有をよりやりやすくしていることを常々実感しています。
発達障害者は困難さとともに、特技やとくに得意な分野を持ち合わせていることが多いので、これらを積極的に見出し、軸として生かしていくことで全体的に過ごしやすくなると考えられます。
そのため、得意分野及びその程度の聞き取りを最後に行い、これも欄外に記載するようにしています。
(19ページ)
⇒☆最後にこの「得意分野の聞き取り」を行うことで、ポジティブな印象を持ってMSPAでの評価を終えられるのは素敵だと思いました♪
(MSPAによる;註)評価を行えるのはあくまで発達障害に精通した臨床家・実務家に限られること、評価はマニュアルに則って行なわれなければならないこと、評価者は講習会ついて研修・トレーニングを受ける必要があるということを、あらためて強調しておきたいと思います。
(32ページ)
⇒☆MSPAの講習会を受けられる機会や場所が今後増えていくことに期待ですね♪
多動性の要支援度が高い場合、児童期にはじっとできるように注意するのではなく、プリント配布係の役を与えるなどして立ち歩けるようにするといった配慮があるとよいでしょう。
成人では、できれば、動くことが業務内容になっているような仕事を選ぶなどの工夫がよいかもしれません。
(44ページ)
⇒☆なるほど~。要支援度の高い多動性を抑えようとするのではなく、逆にそれを生かすような役割や仕事を選ぶという選択肢を本人に持たせることが大切なのですね。
診断名のみが伝わると、「障害」という言葉を受け止めることで自己評価が低下し、また周囲も「障害」だから支援をしてあげなければ。という上からの目線になりやすい傾向がありました。
これに対し、特性を自他がともに理解するという観点が入ってくることで、何をどうすればよいのかがよりわかりやすくなるというプラスがあるように思います。
(50ページ)
⇒☆「特性を自他がともに理解する」ことで、必要な支援をお互いに創り出す、もしくは、必要な支援がどのようなものであるかについて建設的な対話を行うという、より前向きな態度に変わることが期待できますね♪
「つきあう」には時間がかかりますし、当事者本人の主体性が必要です。周りが「こうしたほうがいい、ああしたほうがいい」と言うのではな、本人の「こうしたい」という気持ちを中心に据えて、時によっては待つということも重要です。
本人が自分の特性に「つきあう」にはどうしても時間がかかるということを。周囲の人々も理解して支えていくことが大事であると思います。
(52ページ)
⇒☆当事者としても、自分の特性に「前向きに」つきあえる時もあれば、後ろ向きに「つきあう」ことしかできないときもある。そうした自分の特性に対してのつきあい方にも、時期などによって多様性があるということを受け入れていくことが大事かもしれないなと当事者としてトシヤは思いました。
MSPAがめざしているのは、個々人の発達特性を当事者本人が知ること、周囲にもそれを共有して知ってもらうこと、そしてその理解の差を縮めることで、自分に合った環境を選べることになるということです。
当事者が生活の場で暮らしやすくすることこそが、MSPAの考える一番重要な点です。
(52ページ)
⇒☆自分に合った環境を選べるようになると同時に、自分に合った環境を自分と周囲とともに創り上げていくようになる人が、今後増えていけば素敵ですね♪
(子育て;註)相談の場や3歳児健診などの機会において発達障害の疑いが持たれた場合、すぐに病院の受診を促されるというのは親御さんにとって心理的な障壁が高いと考えられます。
そうした場合でも、MSPAは診断名を出さない形で特性の理解ができますので、地域の支援の場でMSPAが活用できれば、診断を持たずに早期支援につなげることが可能になるのではないかと思います。
(54ページ)
⇒☆「まず診断ありき」ということをどうしても意識しがちですが、診断を待たずに子どもの特性を関わる人全てがその子の特性を理解して、早期支援に繋がればいいなと思いました。
(同時面談システムとは;註)本人、保護者、それに担任の先生など学校での支援者の方に相談の場に同時に来ていただき、支援センター所属の心理士(当初は清水先生)と、それに専門家として私が加わって。1時間の面談のなかで情報収集からアセスメントまでを一気に行うというものです。
医療機関ではないので診断書は書けないのですが、この子の状況を良くするために明日からどうしていくのがよいのかという解決の道筋を、関係者がみんな集まっている場で示し、共有するというやり方です。
(中略)
この同時面談システムは、そうした箱ごとの垣根をなくして、関係者と専門家が一度に顔を合わせて相談しようという試みで、実際にやってみた実感として、とても早く共通理解と支援が得られるという感じがしています。
顔が見えていることで、それぞれの方が自分の思いを語るだけでなく、相手の話も聞きますし、そのことによって「親御さんはこう考えていたのか」「学校ではここで困っていたのか」といった気づきも得られます。
MSPAのツールを使うことで、それぞれの方の見方を勘案しながら公平に情報収集をすることができますし、何より、「この子の未来のために明日からどうしていくか」ということについてどれだけみんなが協力できるか、できる範囲でどこから始められるか、ということをその場で真剣に考えて共有することができます。
(62ページ)
⇒☆これは画期的なやり方だと思いました。この同時面談システムを行う際に、グラフィックファシリテーションが寄与できる部分が多いにあると感じました~♪
成人の発達障害の方を診察していて痛感していることは、現代は情報化社会で職種がずいぶんと変わってきていて、そのことが、発達障害者の就労の可能性を狭めているのではないかということです。
以前であれば、伝統工芸の職人であるとか技術職、簿記などが、細い繰り返し作業による職種に適性がある方の就労先となっていました。それが、IT化やAI化といった現代の趨勢のなかで不要とされ、就労できない方々が出てきています。
この状況をどうすればよいのかという妙案は持ち合わせていませんが、発達障害者が特性を活かせる職種をどう確保していくか、ということは社会全体にとって重要な問題だと考えています。
(64ページ)
⇒☆「10年後には、現在には存在しない職種が数多く誕生することが予想される時代」でもあるので、「特性を活かせる職種を今のうちから確保していく」のではなく、逆に「一人ひとりの特性(凸凹)から職種を新たに創り出していく」という、ある種逆の発想が必要かもしれないなと感じました。
親御さんが発達障害である場合の子育ての困難に関しては、それに対する支援に特化した制度はないというのが現状です。
子育て支援センターには育児不安への相談窓口がありますので、そういったところを利用するのは一つの方法でしょう。
(中略)
MSPAを通して自分を知り、周囲の支援者にもそれを共有してもらうことで、メンタルヘルスを維持しながら子育てをしていただきたいと思います。
(64~65ページ)
⇒☆発達障害を持つ親御さんの子育てに関する支援に特化した制度が今後確立されることが必要だなと感じました。また、発達障害を持つ親御さんを支援するサービスを提供するソーシャルビジネスが増えていくことに期待ですね♪
元の特性は変わりにくいと考えた上で、これまでは対処法を身につけることで適用することができたけれども、その対処法は環境に応じて微調整したりやり直したいする必要があるのだと思っていれば、生涯を通じてトラブルを避けることができ、暮らしやすくなるのではないでしょうか。
生得的特性を変わりにくいものとして捉えることの背景には、こうした考えがあります。
(66ページ)
⇒☆諦めるのではなく、特性として捉えて「明らめる」ということにも通じる考え方ですね。自分の特性を変わらないものとして前向きに明らめて、受け入れていこうとトシヤは思いました。
個人の特性に即したぶれない軸を持ち、そしてそれを本人と周囲の支援者の双方が理解して共有することが、無理のない積み上げとしていくためにはどうしても必要です。
その支えとなるぶれない基準となるものとして、MSPAというツールを開発し鍛えてきました。
(69ページ)
⇒☆「ぶれない基準」だからこそ、「鍛える」という表現がぴったりくるなあと感じました。
MSPAでは幼児期のエピソードを中心に聞き取りを行うため、昔の記憶と共に感情がよみがえるのでしょう。
過去の苦労を思い出し、泣きながら笑顔で話す保護者と共に、「今ここ」にある辛さや困りとは別の、「過ぎ去った苦労」そして「乗り越えてきた歴史」を追体験し、共有することができます。
「今ここ」で必要な支援を行うにあたり、保護者と協働体制をとる意思確認のための貴重な機会と捉えることができます。
(100ページ)
⇒☆トシヤも診断を受ける際に、母子手帳を開いて自分の養育歴を読んで、「母親にすごく愛されていたんだな」ということがわかって少し涙ぐんでしまったことがありました。
MSPAはその構造上、苦しかった過去を振り返り、時に押し込めていた感情を吐き出す場になりえます。そして、特性によるものとそうでないものを整理して自己理解を促すことで、(中略)自分をより受け入れられるようになり、自己肯定感が高まることがあります。
私は、こうしたプロセスは非常に心理治療的なのではないかと考えます。
(106ページ)
⇒☆MSPAの開発時に意図したこととは別の、副次的な効果なのかもしれないと感じました。
京都国際社会福祉センターにて、講習会を行っております。MSPAの評定は、発達障害についての専門的知識を有する専門職者が、MSPAの考え方や評定基準についてしっかりと理解し、十分な評定練習を積んだ上で行う必要があります。
そのため、現状では、講習会を受講してから使っていただくことを原則としています。現在は年間6回程度、京都で講習会を開催し、1回につき50~100名程度の受講生に対して1日半の講習を受けていただいています。
京都国際社会福祉センターのホームページを通じて申し込みをしてください。
(120ページ)
⇒☆MSPAの評定の講習を受けた修了生が増えるとともに、MSPAというツールやその概念に対して理解を持つ人が増えていくことにも期待ですね♪
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