発達凸凹に関する本は本当にたくさんあって、この本がベスト!ということは言えません。
でも、もしかすると一冊の本が、生きづらさを感じている人の扉を開いてくれるかもしれない…という思いを込めて、本をご紹介します。
本の紹介
『事例で学ぶ発達障害者のセルフアドボカシー』
片岡美華・小島道生=編著/金子書房
本書は、発達障害者の「セルフアドボカシー(自己権利擁護)」を学ぶための入門書になります。セルフアドボカシーは、2016年度から施行された障害者差別解消法によって注目されるようになりました。
合理的配慮とセルフアドボカシーとの関係
この法律は、合理的配慮の提供について規定していますが、合理的配慮を得る際には、当事者からの「意思の表明」があったときとされています。
当事者が「バリアがあるから取り払って!」と声を上げることで、「自分に合った支援」が検討され、支援獲得へとつながっていきます。
発達障害の当事者が自己理解と提唱の力をつける方法を紹介
「自分に合った支援」を獲得する際に、自分のことを理解し(自己理解)、それを伝えること(提唱)というセルフアドボカシーが重要となってきます。
この自己理解と提唱は、発達とともに獲得され、また教育することで補強されていきます。
以上を踏まえ、本書では、青年期を中心とした発達障害の当事者、家族、教員(支援者)に対してセルフアドボカシーを解説し、その力を付けるための方法を紹介しています。
本書は以下のような三部構成になっています。
第Ⅰ部 セルフアドボカシーの理論
第Ⅱ部 セルフアドボカシーの支援の実際
第Ⅲ部 当事者からのメッセージ
書評
編著者は本書を「入門書」と位置づけて、なるべく平易な文章で説明しています。
しかし、第Ⅰ部第3章「セルフアドボカシーと提唱力」は抽象的な記述が多いので、場合によっては読み飛ばすのもアリかなと感じました。
第Ⅱ部「セルフアドボカシーの支援の実際」では、セルフアドボカシーの力を付けるための先進的な取組事例を5例紹介しています。
各事例の末ページの解説で実践のポイントが示されているのは、セルフアドボカシーについて取り組んでいる支援者・教育者にとって有益だなと思いました。
また、セルフアドボカシーは当事者が主体となるべきテーマなので、第Ⅲ部「当事者からのメッセージ」では、当事者自らの体験談や考え方の示唆が述べられているのも本書の素敵なところだと感じました。
セルフアドボカシーを行使する当事者や、それを援助あるいは受け止め支援提供していく支援者が、どのようなことに留意すればいいかを考えていく際の参考になりますね。
引用とコメント
以下は書籍からの引用とコメントになります。
「⇒☆」から始まる箇所が引用に対するコメント文です。
発したことばを板書に示すなど、見えるように、見返せるようにするのを一つの方法だと思います 。
ASDの人は、書字で示すと冷静に受け止められることがあります。このことからも話したことば、書きことばを駆使して提唱力を伸ばすとよいでしょう(片岡) 。
(55ページ)
⇒☆ASDの人の提唱力アップに、グラフィックレコーディングが有効ということかもですね♪
どのような過程で支援提供が決まるのかを見える形で示したり、ルールづくりをしておいたりすることは重要です。
また仮に、当初の希望通りに支援提供できないとしても、その理由や、代替案を示さないことには、当事者として納得できるものではありません
これは、障害者差別解消法による「合意形成」が必要であるというところにあたります。
(57ページ)
⇒☆「合意形成」とは、単に希望通りの支援提供が可能になった祭の合意を指すだけでなく、希望通りの支援提供ができない理由や代替案を提示する際のことも指しているということも多くの人に知ってもらえればと思いました。
なおニュージーランドは、適切に対応した担当者(障害学生支援室の職員ではなく、主に教員)に対して表彰を行うことで、教員のモチベーションをあげる工夫も行っていました。
(58ページ)
⇒☆単に「障害者差別はいけません!」と通達するのではなく、このような表彰を行うことでモチベーションも上がりますし、教員各自が自身の教育・研究活動に合理的配慮をどう盛り込むかを考えるきっかけにもなりそうですね♪
他者にしっかりと自分の思いを伝えることは、信頼関係はもちろんですが、眼前にいるスタッフ(他者)は自分の思いをしっかりと聞いてくれる対等な存在だと意識しなければ成立しないからです。
これを踏まえると、スタッフ対支援者の前提を自覚しつつも、語り合う「私」と「あなた」という固有名詞の関係に発展させることがSAプログラム(「セルフアドボカシー教育プログラム」;註)においては求められるでしょう。
(75ページ)
⇒☆私たち凸凹フューチャーセンターがOne day cafeで大切にしている、「対等な立場で語る」・「対話する」ということの重要性が指摘されていますね。
まずは、生徒自身が自分自身を語ることで自己理解が始まるように感じました。自己理解を深めるためにも、根気強く関わり、タイミングを逃さずに支援していることが大事だと思います。
(100ページ)
⇒☆当事者自身が安心・安全を感じながら、自分自身のことを語る「ストーリー・テリング」の方法を用いることということかもですね。
(インフォームド・コンセントは;註)6歳までの患者であれば親の同意で代替可能ですが、小学生から中学生ではインフォームド・アセント(同意)、高校生以上では大人同様のインフォームド・コンセント(許可)が求められ、子どもに内緒に、あるいは嘘をついて診療するわけにはいきません。
子供の発達特性や心理状態、保護者の養育状況に合わせて、病院を受診する目的や治療のゴールを説明し、協働治療者としてタッグを組む必要があります。
(117ページ)
⇒☆ここの部分の記述は、先日の第1回凸凹フォーラムのゲストである小谷裕実先生が担当された、第Ⅱ部実践事例4「医療現場での発達障害のセルフアドボカシーの支援―'わたし'についてのレポートと親子へのインタビューからみえること―」からの引用です。
「協働治療者」という表現が素敵過ぎます♪流石は小谷先生!
差別や偏見については、そのこと自体絶対にしてはいけないもの、ダメなものとして固定的に捉えると、その本質についてそれ以上探ろうとしなくなります。
むしろ、差別や偏見の心は誰にでもあり、その心が生じたときには、どうしてその思いを抱いたのか向き合って考えること、差別や偏見は、その人のことをよく知らないときに生じるものであり、もっとよく知ろうとすることで、差別や偏見の心はしぼんでいくと捉えことが大切です。
差別や偏見について、常に考え続けることが、障害の有無にかかわわらず誰もが豊かに生きる社会づくりにつながります。
(124ページ)
⇒☆差別や偏見をタブー視しすぎるのではなく、自分が差別や偏見の思いを持ったときに、その思いを抱いた自分を認め、その背景を考え続けることの意義をもっと広めていきたいなと感じました!
まずは自分たちの当たり前を無意識に押し付けていないか、そのことで困っている人やつらい思いしてる人がいるのではないか、という視点を持つことが大切です。さらには、「障害のある人のために」ではなく、「障害のある人とともに」という意識をもつことも重要です。
そのためには、地域において、障害について学んだり、障害のある人と一緒に活動したりする機会を設定する必要があると考えます。
(131ページ)
⇒☆凸凹フューチャーセンターでも、One day cafe.kyoto等の開催を通じて、障害のある人と一緒に活動する機会を多くの参加者の方に経験してもらえたらと思いますし、自分たちもそうような経験をたくさんしていければと思いました~♪
当事者が、周囲の人々とともに考える、伝えあうことが重要になってくるでしょう。これはセルフアドボカシーにつながることであり、周囲の人が障害について認識を深めるためにも欠かせない学習内容と言えます。
(132ページ)
⇒☆当事者だけの場で心の安定が得られたなら、その次には、障害のない人と共に考える、伝えあう場をもっと多くの当事者が愉しんでくれたら素敵だなと感じました♪
私は、私が相談等で関わっている子供たちや当事者(成人)の多くに、「自分プレゼンを作ってみないか」と投げかけています。それは、私が自分自身を他者に理解してもらうのに有効だったからです。
「私には、こんな特性があります」「こんなエピソードがありました。それは私のこんな感覚から起因したことだと思います」など文章や言葉だけでは伝えづらいことをスライドにするものです。
こうした「自分プレゼン」を使うことで、見た目には理解されづらい障害でも感覚として納得してもらえたり、お互い歩み寄れたりします。
(143ページ)
私は相談に来てくれる方たちといろいろな話をしながら「自分プレゼン」のネタをご本人の口かきかせてもらっています。
ただ自己理解という観点で相談に乗るのではなく、一歩踏み出せるようになるような作戦ツールとなるように一緒になって「自分プレゼン」づくりをしています。
(147ページ)
⇒☆自己理解だけでなく、自己プレゼンづくりを通して一歩踏み出せるようになる!実に愉しそうに自分プレゼンづくりをやっていけそうですね♪
セルフアドボカシーのためには主張というスタンスではなく、建設的な対話姿勢で臨んでいくことが重要なのです。
(151ページ)
⇒☆今後ますます、対話というプロセスを丁寧に行うことが必要とされていく時代になりそうですね。
オリンピックを目指す選手とパラリンピックを目指す選手が一緒になって練習をしたら、お互いの記録が伸びたというニュースを目にしました。
これは、お互いが心の部分から歩み寄り、尊重し合い刺激を受け合った成果かもしれません。分ける教育や社会ではこの効果は得られないままだったでしょう。
(158ページ)
⇒☆このように当事者も定型発達の人も心から歩み寄り、尊重し合い刺激を受け合うような場を、みなさんと一緒に愉しく創り上げていきたいと強く思いました~♪
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