2017年11月3日金曜日

【発達凸凹 Book#19】 『精神障害者及び発達障害者の雇用における職務創出支援に関する研究』




発達凸凹に関する本は本当にたくさんあって、この本がベスト!ということは言えません。でも、もしかすると一冊の本が、生きづらさを感じている人の扉を開いてくれるかもしれない…という思いを込めて、本をご紹介します。

本の紹介


『精神障害者及び発達障害者の雇用における職務創出支援に関する研究』
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター=著

有志のメンバーが、8月に前橋市で行われた日本発達障害学会に参加した際に入手した資料になります。本書の研究内容は、8月のOne day cafe.kyotoの学会参加報告でも紹介されました。



職務再設計とそのモデル


企業が障害者の雇用を進める上で、担当する職務をどのようにするかは、大きな課題です。この課題を解決するための方策の一つに職務再設計があります。職務再設計とは既に存在している職務を、個人が抱える問題や適正に合わせて改善を図る試みになります。

障害者の職務再設計のモデルとして、「切り出し・再構成モデル」というものがあります。これは、職場に存在する定形反復作業を探し出した上で、これを切り出し、再構成することによって、障害者が従事する職務を創出するといったものです。

このモデルは、主に知的障害者の雇用に活用されていますが、障害特性が多様であり、これに対する十分な配慮が必要である精神障害者及び発達障害者を対象をする場合、これ以外のモデルについても検討する必要があります。

精神障害者・発達障害者を対象とした新たな職務創出支援モデル


そこで、本研究ではまず、「障害者が担当する職務を創出する」ことを目的とする全ての支援を総称して「職務創出支援」と定義しました。

続いて、精神障害者や発達障害者の職務創出の実態や地域障害者職業センター等による職務創出支援の現状を把握するために、アンケート調査と事例調査を実施しました。

そして、「積み上げモデル」と「特化モデル」というものを、精神障害者や発達障害者を対象とした新たな職務創出支援モデルとして提案しています。

積み上げモデル


「積み上げモデル」では、職業リハビリテーションや能力の向上に必要な時間の要素を考慮して、一定の時間をかけて次第に職務の内容や責任の幅を広げるなどにより、十分に能力を発揮していくことができるようにすることを重視します。

雇用開始時点では、既存の職務の中から課題(作業)を切り出し、再構成された限定的な職務を担当しますが、目標として設定する既存の職務や再構成された新たな職務に向けて、課題(作業)を次第に積み上げていきます。

特化モデル


「特化モデル」では、個々の障害者によって異なる得意分野に着目し、その分野における専門性の高い職務を担当できるようにするなどにより、最大限能力を発揮していくことができるようにすることを重視します。

障害者の強みをいかす既存の職務や再構成された新たな職務を選び出し、その職務における一部の不得手な作業等を、担当の見直しや支援の対象とすることで、障害者が得意とする分野に専念・特化できるようにしていきます。

書評


本書は、調査研究報告書という位置づけですが、アカデミックな方々だけでなく、地域障害者職業センターやハローワークなどで職場開拓や職務創出に従事しておられる方々にぜひ読んでもらいたいと思いました。

職場開拓の際に、企業側が「障害者に任せる職務がない」といった問題を抱えているケースがあると思われますが、その際に、本書で紹介されている職務創出の具体的な事例とその効果を掲載してパンフレットみたいなものがあれば有効ではないかと感じました。

2018年4月から精神障害者の雇用義務化に伴い、企業の障害者の法定雇用率は現在の2%から2.2%に引き上げられます。それに伴い、新たに雇用される精神障害者や発達障害者の数が増加することが予想されます。

今後は雇用された精神障害者や発達障害者が継続して働くこと、つまり「職場定着」が課題になると考えられます。

その際、本書が提唱する「積み上げモデル」「特化モデル」が参考となり、一人ひとりの特性に合った職務を担当できるようになれば、職場定着がさらに進むことが期待できますね♪

引用とコメント


以下は書籍からの引用とコメントになります。
「⇒☆」から始まる箇所が引用に対するコメント文です。

ハローワークを通して就職した精神障害者を対象に、1年~15か月後の状況について追跡調査を行った研究では、約半年が1年以内に離職していたことが示された(障害者職業総合センター:調査研究報告書№95精神障害者の雇用促進のための就業状況等に関する調査,2010.)
(5ページ)
⇒☆やはり職場定着率の向上が今後の課題になっていくのでしょうか?

精神障害者を対象とした調査では、離職理由の一つとして、「仕事内容が合わない」が上位に挙げられている。また企業への改善要望として、「能力に応じた評価、昇進、昇格」が最も多く、「能力が発揮できる仕事への配置」も上位に挙げられていた(厚生労働省:平成25年度障害者雇用実態調査,2013.)
(5ページ)
⇒☆企業があらかじめ用意した職務内容が合わないケースも多いと考えられますね。

産業医を対象に職場における広汎性発達障害の対応事例について行った調査では、対応が困難だった事例として、本人に合う仕事を探すのが難しかったことが挙げられた。うまくいった事例としては、本人の得意分野をいかす仕事につけたケースや、他の職員の数倍のスピードで仕事ができる面をみいだされ、職場の受入れがよくなったことが挙げられた。(永田昌子・廣尚典:発達障害の労働者への配慮,精神科治療学,29,2014.)
(5ページ)
⇒☆やはり発達障害者にとっては、自分の凸を生かす方向が合っているのかもしれません。

店舗における仕事を売上の影響度合と緊急度合の2つの軸で整理した「業務分類マップ」を作成した。このマップは店舗全体の業務と、その中で障害者に任せることができる作業を視覚化しているため、店長やスタッフにも障害者雇用の意味や役割が一目で理解できるツールとなった。
(58ページ)
⇒☆実際に職場への配慮を求める場合にも、このような図や表を使ったツールが役に立ちそうですね。

チームで仕事をするという体制を作っているため、ミスが生じた際は個人の責任ではなく、チームの責任と考える。また、ミスの原因を個人の中に求めるのではなく、システムや仕事のプロセスに問題があったと考え、解決に取り組む姿勢があれば、障害のある人にも身体介助の仕事を安心して任せられると考える。
(68ページ)
⇒☆この発想は、障害者雇用にかかわらず、すべての職場で重要な考え方!

アメリカでは2000年代から、精神疾患のある人々が精神保健システムの中のチームの一員として働く「認定ピアスペシャリスト」という新たな職種が創設されている。また、ピアサポートを提供する者を養成するための専門的なトレーニングも行われている。(相川章子:北米におけるピアスペシャリストの動向と課題,ソーシャルワーク研究vol.37(3),27-38,2011.)
(71ページ)
⇒☆ピアスペシャリストという職種があるということ自体がまず日本に比べると先進的な取り組みに感じられますね。

平成25年度障害者雇用実態調査の結果において、将来に対する不安として、7割以上の精神障害者が「仕事を続けられるかどうか」という項目を選択しており、その割合は身体障害者、知的障害者に比して突出して高い。
(107ページ)
⇒☆今後は、この不安を解消して職場定着を図るという支援がますます重要になってきそうです。

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