発達凸凹に関する本は本当にたくさんあって、この本がベスト!ということは言えません。でも、もしかすると一冊の本が、生きづらさを感じている人の扉を開いてくれるかもしれない…という思いを込めて、本をご紹介します。
本の紹介
『発達障害者の就労支援ハンドブック』
ゲイル・ホーキンズ=著・森由美子=訳/クリエイツかもがわ
本書では、発達障害の就労支援にあたって重要と思われる3つのステージを順序立てて説明しています。3つのステージとは、①「本人のことを知る」、②「架け橋を作る」、③「適切な仕事を見つける」です。
本人のことを知る
①「本人のことを知る」は、本書のPart1で扱われています。発達障害を知らない人にもわかりやすくまとめられているとともに、客観視が難しい発達障害の人たちにいかに客観的に自分のことを理解してもらうかという、気付きの与え方についても触れています。
架け橋を作る
②「架け橋を作る」ことについて説明したPart2は4つの項目に分かれています。
まず、1つ目で発達障害の人たちを指導するための4つの柱、「効果的なコミュニケーション」・「明確な期待」・「明確な成り行き」・「一貫性」の重要性とそれらを応用する具体的な方法について説明しています。
2つ目の項目は、就労の道具箱。成功に導くための手段トップ10が挙げられています。
3つ目の項目は、大きなイメージ評価。社会的なスキルや個人の特性などの7つのカテゴリーにおいて、発達障害の人のもつ、競合的な雇用スケールの4段階で評価する取り組みが紹介されています。
4つ目の項目は、具体的な方法。3つ目の項目で集めた情報を元に、就労に向けて取り組むべき課題に優先順位をつけ、それらに実際に対処していくための具体的な方法を紹介しています。
適切な仕事を見つける
③「適切な仕事を見つける」ことについては、Part3で書かれています。実際に就労できたとしても、本人の興味や関心、特性にマッチした仕事に就くことができなければ、長続きしないでしょう。
本書では、発達障害の人が適切な仕事を見つけるための3段階の手順(「キャリア方向の定則」)として、以下の3つの手順を紹介しています。
第1段階:特別な興味、固執しているもの、心惹かれているものを調査する
第2段階:心惹かれるものを仕事に生かす
第3段階:仕事の現実性のチェックリストを作る
書評
原著は、ゲイル・ホーキンズ氏がアスペルガー症候群の人たちの雇用を支援するために書かれました。(「アスペルガー症候群」という言葉ではなく、「発達障害」という言葉に置き換わっている経緯については、後述の「引用とコメント」の部分を参照)
ですので、就労の問題で悩んでいるアスペルガー症候群の人たちには、正にドンピシャで役立つ情報が満載です。
また、「就労支援」という言葉もタイトルに入っていますが、本書では、支援者が読むことを前提とした難解な専門用語は出てこず、実例や図表が多く使用されています。
なので、支援者のみならず、就労の問題で悩んでいる、アスペルガー症候群以外の発達障害の人や、発達障害とは全く無縁でも、仕事を見つけたり仕事を維持したりするのに悪戦苦闘している人たちにも有益な本だと感じました。
引用とコメント
以下は書籍からの引用とコメントになります。
「⇒☆」から始まる箇所が引用に対するコメント文です。
⇒☆第5版に移行して数年が経ちますが、未だに第Ⅳ版から変更された点への整理がされないまま、用語がそのまま使われていることが多い気がしますね。(DSM;註)第4版では、広汎性発達障害という大きな傘の中に「自閉症」「アスペルガー症候群」「広汎性発達障害ー他の亜型」などの小分類があったのに対し、第5版では、「広汎性発達障害」「アスペルガー症候群」という言葉を用いず、「自閉症スペクトラム障害」という大きなカテゴリー、つまり連続体の中にこれまでの「自閉症」や「アスペルガー症候群」を位置づけ、二つの領域「社会性・コミュニケーション能力における欠如」と「固執した興味や常同行動」における度合いを3段階に分けた基準に沿って査定し、障害がある本人のニーズをより明確にしようとしている。(8ページ)
⇒☆頻繁に改訂が行われることで現場の混乱があることも予想されますが、一方で、最新の科学的知見が即座に診断基準に反映されるのは喜ばしいことだと思います。「DSM-Ⅳ」から「DSM-5」へと、表記がローマ数字から算用数字に変わるのを注目すべき点で、5.1、5.2といったように、今までより頻繁に改訂を行うことが見込まれている。(8ページ)
⇒☆なるほど。そういった理由で「アスペルガー症候群」という言葉を「発達障害」という言葉に置き換えているのですね。原著の「アスペルガー症候群」という言葉も、本書では「発達障害」に置き換えさせていただいた。上記のDSM-ⅣからDSM-5への改正点を考慮すると矛盾しているし、現在で言うところの「発達障害」にはレット症候群や小児期崩壊性障害が含まれることも理解している。ただ実際に、日本ではアスペルガー症候群を「発達障害」を言い表すことが多く、実際に一般の人たちの間では「自閉症スペクトラム障害」「アスペルガー症候群」よりも「発達障害」という言葉の方が馴染んでいるのが事実である。この場合の「発達障害」とは、児童精神科医の佐々木正美先生が使われている「発達障害スペクトラム」という言葉の意味、つまり発達障害全体を連続体ととらえる考え方に似ている。DSM-5が出ても、その新しい概念が一般の人たちに浸透するには、しばらく時間がかかると思われる。このような理由からも、本書はあえて「発達障害」という言葉を使い、「アスペルガー症候群の人たち」と「それらしき人たち」、どちらにも属さないが「その他の発達障害で雇用問題に悩んでいる人たちや興味をもつ人たち」、そしてその支援者たちに読んでいただきたいと願っている。(9ページ)
でも実際に、ADHDの人で雇用の問題で悩んでいる人が、ぱっとタイトルを見ただけでは本書を手に取るも、内容がアスペルガー症候群を対象にしたものであるために違和感を感じてしまうといった、ある種の誤解というか混乱を招く可能性があると思いますが。
⇒☆確かに、発達障害者向けのリワークプログラムでも、この多様性への個別対応が必要であることが診療報酬に反映されていないという事情がありました。(発達障害者向けのリワークプログラムについては、こちらの記事を参照)「多様すぎて一人ひとりに対応が必要」とほとんどの専門家があきらめていた発達障害について、具体例をあげながら体系だってまとめている本書には勇気をもらいました。(10ページ)
⇒☆なるほど。「0か100」ではなくて、尺度を導入して、中間部分を数値化して具体的に指示することを繰り返していけばいいのですね。発達障害の人たちは、極端な世界に生きている。彼らは物事を黒か白という観点で見るため、グレーの領域に苦労する。尺度は、両極端のものを特定し、そのうえで中間部分を特定できる。尺度に示されている数字は、グレーの部分をより具体的にすることができ、その結果、特定もしやすくなる。(80ページ)
⇒☆上記の情報処理の3つのタイプを頭に入れて、その人はどのタイプが一番理解しやすいのかというのを判断した上で、その人の処理方法にあった伝達手段を選ぶようにしていけば、情報伝達がスムーズになりますね♪言語、記述、実践による指示に対する理解力学び方には3つの形がある。それは、聴覚、視覚、感覚を使った方法である。①聴覚…聞く事(言葉による指示)を通して学ぶ。聴覚を通して学ぶタイプの人は、聞くことによって一番よく学べる。そういう人たちは、言葉による指示、話し合い、物事を説き伏せて説明すること、人が言うことに耳を傾けるのを好む。説明を声に出して読んだり、録音機器を使ったりすると、しばしば効果がある。②視覚…見ること(記述による指示)を通して学ぶ。視覚を通して学ぶタイプの人は、映像のなかで物事を考える傾向があり、図形、さし絵入りの本、ビデオ、チェックリストなどを含む視覚的なものを使うと最も効果的に学ぶことができる。③感覚…接触、動き、行動(実践による指示)を通して学ぶ。このタイプの人たちは、まわりにあるものを積極的に取り入れながら、実践的な方法を使うと、最もよく学ぶことができる。彼らにとって、長い時間じっと座っているのは大変かもしれないし、活動や探究の必要があることで気が散ってしまうこともあるのかもしれない。どのように学ぶかということは、指示をどのように理解するかに影響する。本人の情報処理の仕方がわかれば、あなたが仕事や課題を説明する最良の方法を決める上で役立つだろう。(117ページ)
⇒☆まず、闘うべきものを自分で決めないままに闘っている人が多い気がします。私の父は、人生の中で闘うべきときとそうでないときを選びなさいとよく言っていた。つまり、父は、何が私にとって一番大切で、何に努力する価値があるのかを自分で決める必要があるということを言いたかったのである。あなたも発達障害の友達も、何に対した闘うべきかを決断するときだ。(130ページ)
また、支援を受けた方が闘いを優位に進められることが傍から見たら明らかなケースでも、支援サービスへの無理解や支援を求める方法がわからないからなのか、「孤軍奮闘」に陥っている人も多い場合も。
そして、いつのまにか、闘うこと自体が目的になってしまっている人も多いのは実に残念。
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