発達凸凹に関する本は本当にたくさんあって、この本がベスト!ということは言えません。でも、もしかすると一冊の本が、生きづらさを感じている人の扉を開いてくれるかもしれない…という思いを込めて、本をご紹介します。
本の紹介
『大人のADHD』
岩波明=著/ちくま新書
日本テレビ系列「世界一受けたい授業」で出演された医師、岩波明氏の著書になります。岩波氏といえば、著書『発達障害』(文春新書)が有名かもしれませんが、今回ご紹介するのは、『発達障害』のおよそ1年半前(2015年7月)に書かれたものになります。
勤務する昭和大学附属烏山病院にてADHD専門外来を担当する岩波氏が、専門医の立場から「大人のADHD」について解説する一冊になります。
ADHDとは何か、特有の症状とはどんなものか、ASD(自閉症スペクトラム障害)との相違点は何か、どんな治療法があるのか。
それらの問いに、豊富な科学的データと実際のケースを紹介しながら解説しています。
書評
日本にはADHDの人が300万人以上いるという推定
書籍のサブタイトルに、「もっとも身近な発達障害」とあるように、ADHDの患者数は予想以上に多く、日本には300万人以上の患者がいると推定されていることを著者は指摘しています。
まずは、この患者数が予想以上に多いということをもっと多くの人に認識してもらえればと感じました。
看過できないADHDと他の精神疾患の併存率の高さ
また、ADHDには、うつ病や不安障害、アルコール依存症などのさまざまな精神疾患が併存するケースがひんぱんにみられることも看過できない指摘です。
ADHDに他の精神疾患が合併した場合、ADHD自体には注目されずに、あるいは見逃されて、別の精神疾患への対応が中心となりやすく、ADHDの特性を把握しないで治療を行うと、十分な改善を得られないというケースが多々あるようです。
なので、ADHDを専門に診ることができる医師が今後増えていくことに期待したいですね。
ADHDの治療におけるグループ療法の有益さ
本書ではADHDの治療について、1章を設けて解説しています。アトモキセチン(商品名ストラテラ)やメチルフェニデート徐放剤(商品名コンサータ)などの薬物療法に加えて、心理教育や認知行動療法、コーチングやグループ療法なども紹介しています。
特にグループ療法については、昭和大学附属烏山病院で成人ADHD患者に対して行われているグループ療法が紹介されています。プログラム作成前の患者への聞き取りからプログラムの作成、参加した患者の変化まで詳細に記述されており、グループ療法の有益さが実感できます。
薬物療法のみならず、上記のグループ療法を含めた心理社会的な療法を実施する治療施設を充実させることが、今後の大きな課題になりそうですね。
新しい活路を切り開く可能性を秘めた「トリックスター」
「おわりに」で、岩波氏は、閉塞した状況を打ち破り、新しい活路を切り開く可能性を秘めたADHDの人を「トリックスター」と呼んでいます。
ADHDの人が持つ可能性を信じ、彼らが自身の力を最大限に発揮できるような仕組みを生み出していくことが今後求められていますね。
引用とコメント
以下は書籍からの引用とコメントになります。
「⇒☆」から始まる箇所が引用に対するコメント文です。
私自身ワンマンプレーに徹することができる職場環境において、目覚ましい成果をあげている ADHDの人を何人か知っている。この場合、過剰に集中する傾向がプラスの面として現れるのである。⇒☆ならば、ADHDの人がワンマンプレーに徹することができるような職場環境を選択・構築できるような支援も、「選択肢」の一つとして充実させていく必要がありますね。(12ページ)
リアルな世界において、ADHDは、発達障害に分類される「疾患」という枠組みを超えた重要な役割を担っている。どういうことかと言えば、困難な現実世界の局面において、沈滞した閉塞状況を打ち破るのは、ADHDの気質を備えた人たちであるからだ。彼らは周囲の思惑を気にしないで、ためらわずに決断し突進を繰り返すのであるが、その過剰な試みは、失敗に終わることもある一方で、新しい活路を切り開く契機になる。⇒☆そうであるならば、ADHDの人がためらわずに決断し突進を繰り返すことができるようなバックアップと、彼らが突進を試みて切り拓いた活路の整備を担おう人材が必要ですね。(13ページ)
ADHD患者は、うつ病とほぼ同数存在しているわけであり、その総数は、わが国全体でみれば、300万~400万人というかなりの数とある。もちろんこの数百万人のADHDの人すべてに治療が必要というわけではないが、少なくとも、ごく少数にみられる疾患ではなく、数多くの人に影響を与えている重要な疾患であることは認識すべきである。⇒☆この「ごく少数にみられる疾患ではなく、数多くの人に影響を与えている重要な疾患である」ことは、国民全体が認識しておいてほしいですね。(43ページ)
言うなれば、彼ら(ADHDの人;註)の頭の中も多動なのである。ADHD患者の「心」の中では、さまざまなまとまらない衝動的な考えが、常に起こっては消えている。よって、対話において、「相手の話をよく聞いていない」「話の一部が飛んでしまう」ということが起きやすい。このため、児童期から思春期になるにつれて、次第に対人関係がうまくとれなくなる傾向がある。つまり、「信頼できる」相手とみなされなくなることが多くなる。⇒☆テクノロジーが進化して、頭の中の考えをすぐに可視化できるようなツールが広まれば、ADHDの人の思考を即座にまとめ、他の人にわかりやすく伝えることができ、コミュニケーションがよりよく取れるようになりますね。(48ページ)
わがOne day cafe.kyotoで活用しているファシリテーション・グラフィックも「考えの可視化」の有効なツールです!
米国における調査では、ADHDには気分障害(うつ病、躁うつ病)などが38.3%、不安障害(パニック障害、社交不安障害など)が47.1%、物質使用障害(薬物依存、アルコール依存など)が15.2%合併することが報告されている。これはかなりの高率である。⇒☆ADHDと他の精神疾患の併存率の高さは多くの人が認識し、周囲の人は、併存する可能性のある精神疾患の予防に配慮できればいいですね。(88ページ)
心理教育は、個人面接の場面でも可能であるが、グループで行うことにより効果が高まるケースが多い。治療者からの「講義」よりも、同じ疾患に悩んでいる他の当事者の発言のインパクトが強いケースが多いからである。本人にとっては、自分だけでなく、他にも同様の症状で苦しんでいる人がいることが共感を呼び、自己理解が深まりやすい。⇒☆さらに、グループだと、他の当事者を観察することで学ぶことも多いと思われます。(175ページ)
認知行動モデルでは、生活上の機能障害が生じるのには、二つの経路があると仮定されている。一つはADHDの症状によって、行動面における対処法を有効に活用できないために、さまざまな機能障害が起きるという経路である。もう一方の経路では、ADHDの主症状によって失敗経験を繰り返すために否定的な認知や信念を持ちやすくなり、その結果として抑うつや不安などの精神症状が出現し、結果として機能障害が起こるというものである。このような機能障害を防ぐためには、ADHDの症状を投薬によってコントロールするとともに、具体的な生活場面における対処方法を身につけ習慣化していくような継続的な努力が必要となる。⇒☆この「具体的な生活場面における対処方法を身につけ習慣化していく」ことに気づくきっかけの一つとして、当事者会が有効に機能する場面があると思います。「継続的な努力」ではなく、習慣化の過程そのものを楽しめれば素敵ですね♪(198ページ)
私自身が認識したことは、ADHDを含む発達障害と呼ばれる人たちは、障害に関連する「症状」があっても、社会の中で輝くことのできるさまざまな「能力」や「素質」を兼ね備えていることであった。(中略)今の日本社会や日本人に「問題」が存在することは確かであるが、まず本人や家族が自身の「力」や「可能性」に気がつくことがなにより重要なことなのである。⇒☆これからは、ADHDの人が、自身の「力」や「可能性」に気づく仕組みを構築することが大切になってくると思います。(233ページ)
現実世界において、ADHDは発達障害に分類される「疾患」という枠組みを超えた重要な役割を担っている。どういうことかと言えば、ADHDは「トリックスター」の役割を果たしているからである。トリックスターとは、元々文化人類学の用語であり、山口昌男氏がキーワードとして用いていた。トリックスターは本来「道化」という意味であるが、転じて、俗なる世界と聖なる彼方をつなぐもの、あるいは、この世界の秩序を一瞬にして変化させる心理的な「装置」を意味するようになった。深層心理学の立場から、C・G・ユングは、トリックスターを彼の定義した「元型」の一つであると定義している。トリックスターは、現実世界の支配者である「王」の前で道化を演じるが、現世の秩序を否定しても罰せられることはない。それどころか、道化の言動は多くの人々の先駆けとなり、秩序の逆転を起こすこともある。 実際の世界でも、沈滞した閉塞状況を打ち破るのは、ADHDの気質をそなえたトリックスター達である。彼らはためらわずに決断し突進を繰り返すのであるが、その過剰な試みは、新しい活路を切り開く契機になる⇒☆この「トリックスター」という表現は、ADHDの人の特性をポジティブに捉えて、ユーモアを添えた表現だと感じました♪(235ページ)
0 件のコメント:
コメントを投稿