発達凸凹に関する本は本当にたくさんあって、この本がベスト!ということは言えません。でも、もしかすると一冊の本が、生きづらさを感じている人の扉を開いてくれるかもしれない…という思いを込めて、本をご紹介します。
本の紹介
『会社の中の発達障害』
星野仁彦=著/集英社
本書は、近年書籍やマスコミでも取り上げられることが多い大人の発達障害、特に遅刻や〆切を守れない、デスク周りが乱雑などといった、会社における発達障害についてまとめた一冊になります。
第1章では、大人の発達障害について近年注目されるようになった要因を3つ挙げています。すなわち、①軽度まで含めると出現率が高いため(10%以上)、②ストレス耐性が低く、思春期以降に二次障害や合併症を発症しやすいため、③高学歴でも、社会適応が困難で就労してから問題が生じやすいため、という3つが要因として挙げられています。
第2章では、大人の発達障害の種類(ADHD・アスペルガー症候群)とそれらの特性について解説しています。ADHDでは、①不注意、②多動性、③衝動性の3つの特性が、アスペルガー症候群では、①社会性・対人関係、②コミュニケーション、③想像力、④感覚過敏・鈍感、⑤協調運動の不得手の⑤つの特性を紹介してます。
第3章では、発達障害が疑われる人たちの職場での振る舞いや仕事ぶりなどの具体例を挙げて、周囲がどのように対応すればよいかを提案しています。
第4章では、発達障害を抱える著者自身の幼少期からこれまでを記しています。祖母に向かって「お前、早く帰れ!」と言い放った三歳児のころや、高校野球の勝利予想にハマった中学生時代、下宿にハエの大群がわいた医学部学生時代などのエピソードが赤裸々に述べられています。
第5章では、発達障害の人が思春期・青年期以降に併発しやすい病気を紹介するとともに、発達障害の治療法として、心理教育と環境調整法、認知行動療法や自助グループへの参加、薬物療法について解説しています。
書評
「星野流根掘り葉掘り」が紐解く多様な「会社の中の発達障害」
職場での振る舞いや仕事ぶりなどの具体例が本当に豊富(その数なんと25個!)に挙げられており、一口に「大人の発達障害」と言っても一人ひとりの特性が多様であり、それ故に直面するトラブルや困難も多様であることを改めて実感しました。
また、一つひとつ具体例について、当事者本人の話だけにとどまらず、幼少期からのエピソードや仕事ぶりに対する周囲の評価などについても述べてあります。
これは、「とことん話を聞いて、これでもかとしつこく尋ねる」問診中心の診察を心がけている著者だからこそ書ける部分かなと感じました。ちなみに、著者の入念な問診は、「星野流根掘り葉掘り」と言われるほどだそうです(笑)
興味を持てる分野を持つことの重要性
そんな著者自身も不注意優性型のADHDで、ひとり暮らしや試験勉強などで学生時代には大いに苦労しています。そんなときに威力を発揮したのが、興味を感じる対象には過剰ともいえる集中力が向けられ、もくもくと努力することができる発達障害の特性でした。
著者は、中学生時代に高校野球の勝利予想に夢中になり、全国の都道府県の予選試合を観戦し、データを分析し、優勝高校を予想する作業に没頭します。
そのときの「徹底的に集中して分析する」という経験が、医師国家試験の過去10年分を徹底的にリサーチしてヤマを張ることに大いに役立ったようです。
高校野球の勝利予想という、今すぐに役立つとは思えないことでも、将来にどういう影響があるかは誰にもわからないものです。損得や合理性にとらわれず、興味の持てる分野を見つけることは発達障害の人には必要だと感じました。
引用とコメント
以下は書籍からの引用とコメントになります。
「⇒☆」から始まる箇所が引用に対するコメント文です。
ADHDは、行動面だけに問題があるのではなく、社会性、学習面、認知機能、運動機能などのバランスが不具合である状態をいいます。そうような症状が、社会生活に適応することのハンディになりやすいということなのです。私を含め学者や研究者の中では、発達障害のことを、「発達アンバランス症候群」と呼ぶべきだという声が増えてきました。⇒☆確かに、「障害」という言葉のインパクトやネガティブなイメージからも、「発達アンバランス症候群」や「発達凸凹」と呼ぶ方がいいと感じることがありますね。同時に、アンバランスや凸凹を持っていても生きづらさを感じることなく、アンバランスさや凸凹具合を愉しみながら生きていける社会の仕組みを作り出していくことも大切ですね♪
(28ページ)
(著者の;註)母も間違いなく発達障害(ADHD)だと考えられます。父は多動・衝動性優性型、母は不注意優性型といわれるタイプで、このふたつのタイプはなぜか妙な親和性があり、引き合うのです。いじめっ子といじめられっ子、DV(夫婦や内縁関係、恋人などの近親者間に起こる暴力)加害者と被害者という関係になる傾向があります。⇒☆元来、人懐っこいというADHDの基本的な特性の上に、多動・衝動性優性と不注意優性というそれぞれの特性が作用して、いじめやDVの関係ができあがる傾向があるのかもしれませんね。
(138ページ)
今役に立つとは思えないことでも、将来にどういう影響があるかは誰にもわからないものですので、損得や合理性にとらわれず、興味を持てる分野を見つけることを、発達障害の人にはおすすめします。⇒☆先日のOne day cafe.kyotoで、ゲストのウヌマさんがおっしゃっていた「計画的偶発性」と通じる部分かもしれませんね♪
(144ページ)
「気づくこと、受け入れること、そして情熱を注いで生きること」⇒☆そしてゆくゆくは、「改善自体を愉しむこと」ができるようになれば更に素敵ですね♪確か、先述したウヌマさんも、自称「改善オタク」でしたね(^_^;)
本人や家族、職場を含む周囲の人間が、現実に気づき自分を冷静に見つめなおすことができれば、治療の効果も上がり、改善の方向に向かう可能性は十分にあります。(161ページ)
全国的に展開している大人の発達障害の自助グループとしては次のものなどがあります。⇒☆上記3つに加え、小規模ながら地域で活動している自助グループとすぐに繋がれる仕組みや支援が必要ですね!特に地方では切実な課題でしょう。
①えじそんくらぶ ADHDの人とその家族などを応援
②アスペ・エルデの会 発達障害者とその家族や関係者を支援
③大人のADD&ADHDの会 ADHDの人の実態を把握し支援(183ページ)
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