発達凸凹に関する本は本当にたくさんあって、この本がベスト!ということは言えません。でも、もしかすると一冊の本が、生きづらさを感じている人の扉を開いてくれるかもしれない…という思いを込めて、本をご紹介します。
本の紹介
『脳からわかる発達障害』
鳥居深雪=著/中央法規
植草学園大学准教授であり、NPO法人人間医工学研究会「千の葉教育科学研究所」で、脳科学の研究成果を子どもたちの教育に応用することに取り組んでいる鳥居深雪氏の著作です。
LD・ADHD・高機能広汎性発達障害の子どもたちを脳機能から理解するアプローチを紹介するとともに、脳機能の基礎知識がわかりやすく書かれています。
また、著者が実践している遊びを通した認知支援(CIP:Cognitive Intervention in Play)やソーシャルスキルトレーニング(SST:Social Skil Training)などの発達障害の子どもたちの指導方法についても解説されています。
巻末の資料には、上記の指導方法で用いるワークシートなどの教材が紹介されています。
書評
脳科学の基礎知識がとてもわかりやすく書かれているなというのが第一印象でした。発達障害のある子どもたちが抱える生きづらさも、脳科学から考えるとより理解が深まるなとも感じました。
脳科学の知見+教育現場での経験
また、一つの事象に対して、脳科学の知見と教育現場での感覚の両方から述べている記述が度々登場します。
これは、著者が脳科学の研究者になる前に、長らく教員として特別支援教育に携わっていたことがあり、それもこの本の特色だなと思いました。
ですので、この本で著者が紹介する指導方法は、脳科学の知見に加えて、著者の教育現場での経験が盛り込まれていて、発達障害のある子どもたちの教育や子育てに活かせるものが多いのが素敵だなと感じました♪
診断基準に関しての注意
本書の初版発行が2009年9月となっています。なので、現行の診断基準であるDSM-Ⅴではなく、それ以前の診断基準であるDSM-Ⅳ-TRに準拠した診断名(高機能広汎性発達障害など)が登場するので少し注意が必要かと思われます。
引用とコメント
以下は書籍からの引用とコメントになります。
「⇒☆」から始まる箇所が引用に対するコメント文です。
発達障害は、「障害らしくない障害」「見えにくい障害」といわれます。一見、何の障害ももっていないように見えるために、支援よりも批判や攻撃を受けることの方が多くなってしまいます。周囲から障害が理解されないことが最大の問題であると言っても良いかもしれません。
(12ページ)
⇒☆周囲から障害であると理解されないことが最大の障害である、といってもよいかもしれませんね。教員をしている友人と、もう一つ意見が一致することがあります。それは「子ども全体の社会性が落ちているので、支えてくれる周囲の子供がいなくなった」ということです。
かつては、いろいろなことでうまくできない子どもがいても、周囲の子どもがうまくサポートして、手伝ったり仲間に入れたりしてくれました。最近では、それができなくなってきているのです。
子どもたち全体の「人と関わる力」が弱くなって、それぞれがバラバラに動くことが増えました。サポートするどころか、いじめの標的にすることさえあります(私見ですが、この変化は特に女の子に顕著であるような気がします)。
(13ページ)
⇒☆定型発達、発達障害に関わらず子ども全体の社会性を育むことができるようにするにはどうしたらいいのかについても、今後議論が必要でしょう。発達障害をもつ子どもが増えた要因としては、生物学的なもの(実際に増えている)、社会的なもの(より困難さが増加している)が、複雑に絡み合っていると考えられます。
(14ページ)
⇒☆先ほど出てきた、「子ども全体の社会性が落ちている」ことが、より困難を抱える子どもが増加している一因となっていると思われます。「ものを見ることは学習によって獲得する力である」ということと、そのような学習に適した時期は限られている、ということです。
ここでいう「学習」とは、心理学用語で「経験によって、行動が多少とも持続的な変容を示すこと」を意味します。脳の発達の観点から考える、学習が可能な時期のことを「感受性期」といいます。
子どもの頃に正常な視覚体験をしておかないと、脳内で視覚情報を処理する機能が発達せず、成長してから目を治療しても見る力が獲得できないのです。「見ること」には、目だけでなく脳も働いているのです。脳の機能を発達させるためには、感受性期に必要な経験を通して学習をしておくことが、とても大切だといえるでしょう。
(28ページ)
⇒☆確かに感受性期に必要な経験を通して学習しておくことがとても大切だと思います。しかし、この感受性期に必要な経験を通して学習する機会を不幸にも逸してしまった人たちのためにも、何らかのリカバリーする方法が医学的・心理学的知見から発見されれば、もっといいですね♪
人の顔が覚えられない認知障害は「相貌失認」といいます。相貌失認の発症率は、以前は少ないと考えられてきました。
しかし、最近の調査で、人口の2~3%にのぼるということがわかってきています(これは、どの学校にも一人はいる、ということです)。
自閉症を中心とする広汎性発達障害の方には、相貌失認が多く見られることは知られています。
(中略)
高機能広汎性発達障害の子どもたちが、誰に対しても打ち解けず堅苦しい接し方であることが多いのは、顔の認知の問題も関わっているのではないかと思います。
「人の顔が覚えられない人たちがいる」ということを、みなさんに理解してほしいと思います。
(35ページ)
⇒☆相貌失認の発症率が人口の2~3%にのぼるということは、もっと多くの人に知っておいてもらいたいですね。教育的には、PDDではなくてもIQ70~85程度の知能の子どもたちは「境界線知能」として、特別な支援を必要とすると考えられています。
「標準的知能」はIQ85以上なので、教育的にはIQ85以上ないと「高機能」とはいえない、と判断されます。日々の支援を考える上では、教育的判断の方が現実的な気がします。
(88ページ)
⇒☆IQ70~85程度の人は、制度の狭間にも置かれやすいということがあるのかもしれませんね。
日本の高機能PDD者として有名なニキ・リンコさんの言葉を借りれば、「定型発達の人がオートマチックでできることを、すべてマニュアルでやっている」ようなものだそうです。
(124ページ)
⇒☆ニキ・リンコさんらしい言葉♪マニュアルでやるのは確かに苦労や疲れがたまることも多いですが、マニュアルを作ることを愉しみながら、日常生活の幸福度を上げていければ素敵ですね♪学校や家庭では、情報が多すぎで意味がうまく理解できなかったり、周囲のペースとなかなか合わなかったり、子どもにとって不安で自信がもてない状況になっているのかもしれません。
子どもは「安心」できて「わかる」環境があってこそ、たくさんのことを学べるのです。
(138ページ)
⇒☆まずは、「安心」できて「わかる」環境。One day cafe.kyotoもこのことを意識してイベントを運営する必要があると痛感!!!
ひとつのことを決めるのにも時間がかかることがありますが、子どものペースに合わせ、子どもが自分の気持ちや考えを整理する間、待つことが大切です。待っている時間にも、とても大切な意味があるのです。
(138ページ)
⇒☆この「待つ」という行為の重要性をより多くの人に認識してもらいたいですね。
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