2018年2月7日水曜日

【発達凸凹 Book#26】 『発達障害を仕事に活かす』



発達凸凹に関する本は本当にたくさんあって、この本がベスト!ということは言えません。でも、もしかすると一冊の本が、生きづらさを感じている人の扉を開いてくれるかもしれない…という思いを込めて、本をご紹介します。

本の紹介


『発達障害を仕事に活かす』
星野仁彦=著/朝日新書

発達障害の研究・治療の第一人者であり当事者でもある、医師の星野仁彦氏の著作です。「多動」「衝動性」「過集中」といった発達のアンバランスも、その適性が職業と結びつけばプラスの効果をもたらすことを示唆した一冊です。

本書の構成


第Ⅰ章では大人の発達障害の基本について説明。

星野氏が「発達アンバランス症候群(凸凹症候群)」と呼んでいる、いわゆる発達障害の特性について、どういう特徴があるのか、診断基準はどうなっているのか。あるいは、大人になってから発達アンバランス症候群(凸凹症候群)があるかもしれないと気づいた人たちにはどういう課題があるかなどについての話が盛り込まれています。

第Ⅱ章では、発達アンバランス症候群(凸凹症候群)をどう見立て、活かしていったらいいかを、発達アンバランス症候群(凸凹症候群)がある著名人たちを例にした考察が展開されています。

第Ⅲ章では、専門性の高い、最新の知見を紹介されています。脳(前頭葉)の機能不全との関連に触れつつ、脳の機能不全を起こす原因を遺伝的要因、環境的要因、心理社会的要因に分けて、最先端の知見を記述されています。

また、脳のワーキングメモリを鍛えることができる、科学的根拠のあるトレーニング方法も紹介されています。

なぜ仕事や人間関係がうまくいかないのかよくわからない、発達障害についてもあまり知らないという人は第Ⅰ章を、少しは知っているけれどももう少し勉強したいという人は第Ⅱ章まで、最先端のことも知りたいという人は第Ⅲ章まで読むといいと思います。


書評


中学校・高校の教諭に意外と(?)多い発達アンバランス症候群


まず、発達アンバランス症候群(凸凹症候群)の人が多い職業に、中学校教諭・高校教諭を挙げているのが印象に残りました。

基本的に担任を持ち、全科目を始動するためにバランスの良さを求められる小学校教諭とは違い、教科担任としてより高度な専門性が求められる中学校教諭や高校教諭に、発達アンバランス症候群(凸凹症候群)の人が多く見られるのも納得できました。

対人援助職を養成する学校での発達凸凹をもつ学生への支援


また、星野氏は経験上、発達アンバランス症候群(凸凹症候群)の人が看護師、保健師、社会福祉士、介護福祉士、助産師、臨床心理士、理学療法士、作業療法士などの対人援助職に就くことに注意を要すると考えています。

しかし、こういった職業を選んでしまい、不適応を起こして星野氏のクリニックを受診する発達アンバランス症候群の人が本当にたくさんいるという指摘には考えさせられました。

One day cafe.kyotoでは以前に、看護師のやましのさんをゲストにお迎えしました。

やましのさんは、発達アンバランス症候群の特性をもつ「パステルゾーン」の学生さんに対して、グラフィックファシリテーションを通じて個別に相談に乗ったり、具体的にやることを提示したりするなどの支援について話して頂きました。


今後は、やましのさんが実践されているような、発達凸凹の特性に応じた指導法が上記の専門職を養成する学校で普及していくことに期待したいですね♪


引用とコメント


以下は書籍からの引用とコメントになります。
「⇒☆」から始まる箇所が引用に対するコメント文です。

バンドSEKAI NO OWARIのボーカル深瀬慧さんらがADHDを、(中略)女装家のミッツ・マングローブさんが学習障害をカミングアウトするなど、ご自身の発達障害について公にし、子どもの頃からどういう苦労してきたかについて話す著名人も増えました。
(3ページ)
⇒☆このようにして自身の発達障害をカミングアウトしても大丈夫な世の中になっていけば素敵ですね♪

(大人のADHDの基本症状である「不注意」「衝動性」は;註)最近の脳科学や認知心理学の研究から、「ワーキングメモリー(作業記憶)」の弱さに起因しているとも考えられます。そして、発達障害のある人は全般的に作業記憶が弱いことがわかっているのです。
(101ページ)
⇒☆ならばワーキングメモリに依存せずに、デジタルツールなどを用いて代替することも必要ですし、代替ツールの開発にビジネス的なポテンシャルもありそうですね。

ADHDの人も興味関心があることには過集中になりますが、アスペルガー症候群の人は熱中というより執着します。それが自閉症の人の大きな特徴、こだわりです。
(110ページ)
⇒☆なるほど。「熱中」ではなく「執着」ですかあ~。ピンと来ます♪

発達にアンバランスのある人の、多動、気分のムラ、衝動的に行動するなどといったADHD的な側面は、裏を返せば、エネルギッシュで、感受性豊かで、アンテナが鋭くて反応が早いことと言えます、彼らには新奇追求傾向もあります。新奇追求傾向は退屈に耐え切れず、常に新しい刺激を追い求める性質のことですが、プラスに働くと、周囲が驚くような才能を発揮します。
(181ページ)
⇒☆確かに。凸凹フューチャーセンターのメンバーやOne day cafe.kyotoに参加される方の中には、この特性を持つ魅力的な方も多いですね♪

突出した凸の部分こそが、実は「専門性を獲得し高めていくのに適している」と言えます。
(186ページ)
⇒☆おお、これはとても勇気づけられる一文!!!

「発達にアンバランスがあるなあ」と思われる教諭には小学校よりも中学校で、中学校よりも高校で本当によくお会いします。
(189ページ)
⇒☆そうでなるならば、発達アンバランス症候群に多いストレス対処能力の低さの問題からも、昨今話題の「教員の長時間勤務」の問題はなおさら早期に解決していく必要がありますね!

私は経験上、発達アンバランス症候群(凸凹症候群)の人は、向いていない職業のなかでも、特に対人援助職に就くことは注意を要すると考えます。 
対人援助職とは看護師、保健師、社会福祉士、介護福祉士、助産師、臨床心理士、理学療法士、作業療法士など、専門的な技術だけでなく対人関係能力や社会性、コミュニケーション能力などが求められるものを指しますが、不思議なことに、こういった職業を選んでしまう発達アンバランスのある人は少なくないのです。そういう方で不適応を落とした方が本当にたくさん外来に来られます。
(200ページ)
⇒☆女性で発達アンバランス症候群の人が対人援助職に就こうとすることは多いと思います。問題は向いていないからといって簡単に諦めるのでもなく、ひたすら苦手なことを我慢するのでもなく、凸凹があってもそれを愉しみながら対人援助職に就くことができる、仕組みやデジタルツールなどを創り出すことだと思います!

一見、大変で遠回りに見えるかもしれませんが、それぞれが自分のメタ認知を上げて、日々の自分の行動を観察し分析していくことが、自分に合った仕事を見つけて社会参加していくために一番確実な方法だと言えます。
(204ページ)
⇒☆この「自分のメタ認知を上げて日々の自分の行動を観察し分析していくこと」において、支援を求めるのもいいですし、自分の行動を観察し分析していくことを愉しんでいる人の姿を当事者会で見ることも大いに刺激になると思います♪

平成29年度からはLD等通級指導教室が高等学校にも導入されました。また、平成30年度から使用が始まる新しい学習指導要領では個々の子どもの発達を踏まえた指導の必要性やその指導案が総則や解説書に明記され、特別支援学校のそれも現行のものと比べると大幅に改定されます。 
それでも、アメリカで特別支援教育を受けている子どもが全体の1割強、イギリスでは2割に上ることを思えば、まだまだ実数としてはとても少ないことがわかります。 
私は各地の教育委員会の専門家チームの一員でもあるので学校側の話もよく聞きます。そして、保護者の多くに、いまだに「平均から外れる恐怖」が根強くあることが否めないと感じています。 
実際、特別支援教育を受けることに対する健常者側からの偏見ははまだまだ強くあります。そのため、たいていの保護者が我が子を「通常学級でみんなと一緒に学ばせたい」と思いがちなのです。 
しかし、この「みんなと一緒、横並びに」の発想が、発達アンバランス症候群(凸凹症候群)のある子供にとっては致命的なダメージに直結します。
(209~210ページ)
⇒☆加えて、特別支援教育を受けることで子どもの将来、特に就労における選択肢が狭まることに対する保護者の恐怖があるのかもしれません。

なので、今後は、特別支援教育を受けたからといってその選択肢が狭まることがないような、就労への結びつきや連携を深める。

そして、特別支援教育を受け、その子の凸を伸ばすことで就労の選択肢がかえって増えること、本人が自身の特性に適した職業に就くことで安定した生活が送れることを社会に発信していく必要がありますね!

同教授(フロリダ大学のトレーシー・アロウェイ教授;註)は、『脳のワーキングメモリを鍛える!』(NHK出版)のなかで、ワーキングメモリーを強化させる習慣として七つを挙げています。 
①十分な睡眠をとる(いくつであろうが、十分な睡眠をとらなければワーキングメモリは機能しないことがわかっています) 
②整理整頓を心がける(生活空間や職場が乱雑であればあるほどワーキングメモリの働きは悪くなります) 
③本能のままに体を動かす(ランニングやマインドフルネスがワーキングを強化することが証明されています) 
④創造性を発揮する(工夫し発明することがワーキングメモリを鍛えることがわかっています) 
⑤いたずら書きをする(会議中でもいたずら書きをすることでワーキングメモリーを稼働させれば情報の記憶に役立つという報告もあります) 
⑥フェイスブックを活用して友人の投稿をチェックしたり、電話をかけたりして友人らの近況を尋ねることを習慣にする(フェイスブックのメンバーである期間が長いティーンエイジャーほどワーキングメモリテストのスコアが高く、関連があるのは「友人の投稿をチェックする」と答えた人たちだと分かりました。これは長期記憶に保存して友人の情報を消去して新しい情報に書き換えるときにワーキングメモリを使うからだと考えられています)。 
⑦戸外で過ごす(公園を散歩した人はワーキングメモリのスコアが20%ほど上昇したという報告もあります)
(286ページ)
⇒☆まず③において、マインドフルネスでワーキングメモリが強化できるということを知らない人が多いと思います。なので、もっと多くの人に知っておいてもらえたらと思います。

⑤の「いたずら書きをする」について、(ある程度の)いたずら心を持って、グラフィックファシリテーションをしている人は、ワーキングメモリを常に稼働させているから、ワーキングメモリーを強化させる習慣を無意識にやっているのかもしれませんね。

大事なことは、自分を客観的に見ることができて、適正を見つけられ、その適性に合った家庭環境や職場環境に出会えたり、その適性に合った環境を作れたりするかなど、「自分自身の発達のアンバランスにどう対応するか」です。
(292ページ)
⇒☆加えて、これらの「自分を客観的に見る」「適正を見つける」「適性に合った環境を作る」こと自体を愉しめる仕組みを、One day cafe.kyotoとしても発信していければなと思いました♪

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