発達凸凹に関する本は本当にたくさんあって、この本がベスト!ということは言えません。でも、もしかすると一冊の本が、生きづらさを感じている人の扉を開いてくれるかもしれない…という思いを込めて、本をご紹介します。
本の紹介
『ASD(アスペルガー症候群)、ADHD、LD 大人の発達障害 日常生活編』
宮尾益知=監修/河出書房新社
河出書房新社の「親子で理解する特性シリーズ」
本書は、河出書房新社が発行している「親子で理解する特性シリーズ」の内の1冊です。
以前にこの発達凸凹Bookのコーナーでも、本シリーズの一つ、『ASD(アスペルガー症候群)、ADHD、LD 職場の発達障害』を取り上げました。
今回ご紹介する本は、ASD(アスペルガー症候群)、ADHD、LDの特性を理解して、日常生活の「大変さ」を減らす対応策と適切なサポートの方法について書かれたものになります。
本書の構成
第1章では、発達障害の特性は基本的に変わらないことや女性の発達障害は気づかれにくいこと、トラブルの原因は"大人の常識"が通じないことなどが書かれています。
また、空気が読めない、約束が守れないといった日常生活でのさまざまな場面における特性の強弱をチェックする「日常生活チェック」という項目が10個ほど登場します。
日常生活で起きやすい代表的なトラブル
第2章では、日常生活で起きやすい代表的なトラブルと対応策(ASD編)。ASDの人が起こしやすいトラブルである、「深い人間関係が気づきにくい」点を取り上げ、サポートのポイントについて解説しています。
第3章は、日常生活で起きやすい代表的なトラブルと対応策(ADHD編)。
ADHDの人が起こしやすい代表的なトラブルである、「約束が守れない」「片付けが苦手」「毎日の家事が苦手」「金銭の管理が苦手」の4項目について、具体的なサポートの方法について解説しています。
交友・恋愛編
第4章は、交友・恋愛編。ASD、ADHDの人が友人との間でトラブルになる理由を説明した上で、会話のスキルを上げるポイントをASD、ADHDに分けて解説しています。
また、恋愛のトラブルについては、特にASDの人が直面することが多い「異性との付き合いが長続きしない」・「食事のマナーが守れない」の2点において注意すべきことも取り上げています。
子育て・夫婦関係編
第5章は、子育て・夫婦関係編。子育てにはマニュアル特性のためにも正解もなく、日々成長し変化していく子どもへの対応に戸惑ったり悩んだりしてしまいます。
また、特性のために夫が妻の状況を理解できなかったり、常に自分の好きなことを優先して子育てや家事を手伝わないために、トラブルになってしまう場合があります。
そんな子育ての悩みや子育てを手伝ってもらうためのサポートの方法については、ポイントを絞って解説しています。
夫婦関係編では、①夫がASDの場合、②妻がASDの場合、③夫がADHDの場合、④妻がADHDの場合の4パターンに分け、各々のパターンでよくあるトラブルとそのトラブルを回避するコツを紹介しています。
二次障害と薬物治療
第6章は、二次障害と薬物治療についての章です。二次障害については、大人の発達障害の人がかかりやすい主な二次障害と二次障害に効果のある主な薬が紹介されています。
また、大人のADHDに効果がある薬物治療(特にコンサータとストラテラ)やカウンセリング、環境調整についても書かれています。
専門医からのアドバイス
第7章は、専門医からのアドバイス。監修者の宮尾氏が、多数の発達障害の方を診察してきた専門医として、大人の発達障害の方がもっと楽に生活できて、支援する方や企業の担当者にとっても参考になるためのアドバイスを綴っています。
書評
見開き2ページで1トピック+大きなイラストで読みやすい♪
見開き2ページにトピックを1つに絞って解説するという書き方なので、1ページ目から読む必要がなく、気になった箇所から読み進めていくことができます。読書にハードルの高さを感じている人にとってとっつきやすい書物になっているなと感じました。
大きなイラストがふんだんに使われているので、文字が苦手という方にも読みやすいと思いました。
ASDの人には予習を、ADHDの人には復習を
また、日常生活を送る上で生じるトラブルやその背景、サポートのポイントについて、ASDとADHDに分けて解説しているのも印象的でした。
中でも、「ASDの人は物事を概念化することが苦手なので、一見同じようなケースに思えることも、一つひとつ予習して覚えていく必要がある。ADHDの人は、考える前に行動してしまうという特性があるので、失敗してもそれを責めずに、後から復習させることで、次からはうまくできるようになる」という指摘は非常に興味深い指摘だなと感じました。
この「ASDの人には予習を、ADHDの人には復習を」という視点を持つのもサポートする上での重要な点だなと思いました。
発達障害の人の中に閉塞社会にイノベーションを起こす人材が!
監修者の宮尾氏が第7章で、「日本では多くの企業がイノベーションやブレイクスルーを起こせる人材がいないと悩んでいるが、発達障害の方の中からそういう人を探し出すことが一つの方法になるのではないか」と指摘したのも強烈なインパクトを受けました。我がOne day cafe.kyotoも、閉塞社会にイノベーションを起こす場の一つになればいいなと感じました♪
引用とコメント
以下は書籍からの引用とコメントになります。
「⇒☆」から始まる箇所が引用に対するコメント文です。
ADHDの女性は、子供の時から男性に比べて「多動性」「衝動性」の特性が目立ちません。しかし、「多動性」が「おしゃべり」に現れたり、「衝動性」が「移り気」や「つい、うっかり~」に現れる場合が多いようです。
こうした特性は思春期前後から現れてきます。その結果、女性同士の会話で友人の秘密をつい「暴露」してしまうなどの不注意な発言や人の話に割り込んだりして周囲とトラブルになる場合があります。
(49ページ)
⇒☆多動性や衝動性の特性が目立たないからと言って、ADHDの女性が生きづらさを抱えていないわけではなく、むしろ女性特有のコミュニケーションの中で生きづらさを抱えることがあるということですね。ASDの方には予習が必要であれば、ADHDの方には復習が重要です。失敗してもそれを責めずに、後から復習させることで、次からはうまくできるようになるのです。
(61ページ)
⇒☆「ASDの人には予習、ADHDの人には復習」。各々の特性をもつ人をサポートする上でのポイントが端的かつ分かりやすく表現されてますね♪顔を見ながら相手の感情を読み取ることが苦手なので、1対1で向き合って話すよりも、横に並んで、一緒に対象となるものを見ながら話をするというのがよいでしょう。 例えば、スケジュール表や図などを見ながら説明すると、緊張せずに理解してもらいやすくなります。
言い方のコツとしては、アドバイスをするというよりは、「私だったら、こうするな」とボソッとつぶやくような言い方が良いでしょう。例えて言うなら、クイズ番組を一緒に見ながら、ヒントとなるようなことをボソッとつぶやくといった感じです。
「いいことを聞いた。もうけた、得した」と思えば、彼らは不思議なほど素直に受け入れ実践します。自分の得にならないことを強制されることには、非常に苦痛を感じますが、社会的な評価や経済的なメリットがあるとわかれば行動するのです。「〇〇すればあなたが得するよ」といったような言い方も効果的です。
(61ページ)
⇒☆であるならば、「私だったら、こうやって愉しむな」とか、「〇〇すればあなたも愉しむことができるよ」という言い方をするのもいいのかもしれませんね♪ASDの人と結婚する場合は、最初に家庭内の役割分担をしっかり話し合って決めておくことがとても大事になります。ASDの人は、家事も自分の仕事と認識すれば、きちんとこなす場合が多く、決められた家事についてはしっかり手伝ってくれるはずです。
(83ページ)
⇒☆この家庭内の役割分担も、子どもが生まれるなどのライフステージが変化する度にしっかり話し合って決めておくことも大切ですね!人間関係で大きなストレスを抱えている人は、ペットを飼うことでリラックスできる人もいます。人間が相手だと緊張する人も相手がペットだとリラックスして話しかけられるようです。生き物が飼えない場合は、ぬいぐるみやロボットでも構いません。
(100ページ)
⇒☆One day cafe.kyotoでも以前、動物療法に関する記事を「発達凸凹速報」として、facebookページにてご紹介しました。なるほど、ぬいぐるみやロボットでもいいのですね。脳神経科医、オリヴァー・サックス博士の著書『火星の人類学者―脳神経科医と7人の奇妙な患者』には、自らを「火星の人類学者のようだ」という自閉症の動物学者の話が出てきます。
彼女は人の気持ちや表情が読めず、複雑な感情やだましあいが理解できないため、"厖大な経験のライブラリー"を作り上げ、それを参照することで普通の人の行動様式を分析し、解読しながら生活しているといいます。
「自分は火星人で、地球人の中に紛れ込んで彼らのことを勉強している」くらいの気持ちで人と接するというのも、一つのヒントになるかもしれません。
(107ページ)
⇒☆普通の人の行動様式を分析し、解読しながら生活するのは中々1人ではできないことですので、当事者会に参加するなどして、「普通の人はこういった場面ではこう考えるのでは?」という意見を出し合いながら、複数人で普通の人の行動様式を分析するのもいいと思います。今、日本では、多くの企業がイノベーションやブレイクスルーを起こせる人材がいないと悩んでいます。私は発達障害の方の中からそういう人を探し出すことが、一つの方法になるのではないかと思っています。一部の企業では、既にそうした取り組みも始まっているようです。
(111ページ)
⇒☆発達凸凹さんのポテンシャルを感じさせる、大変勇気づけられる一文ですね。イノベーションを起こせる人材を発達凸凹さんの中からどう見出すかが今後の日本社会に問われていると思います。
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