発達凸凹に関する本は本当にたくさんあって、この本がベスト!ということは言えません。でも、もしかすると一冊の本が、生きづらさを感じている人の扉を開いてくれるかもしれない…という思いを込めて、本をご紹介します。
本の紹介
『発達障害者の才能をつぶすな!』
斎藤祐作=著/幻冬舎ルネッサンス新書
本書は、日本の社会システムそのものを、発達障害の当事者たちが適応しやすいようにアップデート(不具合などを修正)し、真の意味での共生社会を作るために書かれた本です。
本書の構成
第一章では、定型発達でない人に対する迫害や発達障害の過剰診断の恐ろしさが、著者の実体験をまじえながら克明に綴られています。同時に、定型発達でない人に対する迫害の根絶を訴えています。
第二章では初歩的な政治・選挙工学の知識を交えながら、発達障害の当事者の団結の必要性について訴えています。
第三章では、社会システムのアップデートに必要な財源をどのように確保すべきが提示しています。
その上で、第四章から第十四章では、教育制度や雇用制度をどのように変えていくべきかについて、実にさまざまな案を提示しています。
書評
まず、発達障害の当事者が置かれた現状を、豊富かつさまざまなデータを元に詳細に記述してある点が印象的です。著者自身の、視覚言語型のアスペルガー症候群という特性と、日本の社会システムそのものに対する強い問題意識が感じられました。
著者は第二章で、日本の社会システムをアップデートするためには、発達障害の当事者の団結が必要であると訴えかけています。
発達障害の当事者間のネットワークについては、その必要性が当事者会などでも認識されるようになり、2017年7月には、「発達障害当事者会フォーラム」が初めて東京で開催されました。
翌2018年1月には、「発達障害当事者会フォーラム2018」が大阪で開催され、我ら凸凹フューチャーセンターも第2部のパネルディスカッションにおいて、グラフィック・ファシリテーションを務めさせて頂きました。
ゆるい連携と対話の場の重要性
発達障害当事者会フォーラム2018で感じたのは、完全一致を目指した「団結」ではなく、互いの当事者団体の良さや違いを認め合い、活かし合う「ゆるい連携」が、発達障害の当事者間のネットワークに有効であるということです。
その上で、当事者間だけでなく、支援者や行政、研究者等のさまざまなステークホルダーを混じえた「対話の場」を創造していけば、社会システムのアップデートが更に加速していくという期待を持っています♪
引用とコメント
以下は書籍からの引用とコメントになります。
「⇒☆」から始まる箇所が引用に対するコメント文です。
私はまず法人税の実効税率を、現行(2016年度時点)の約30%から、2000年代と同水準の40%に戻すべきだと考えています。それによって得られた財源を、まず教育予算の公的支出に充てるべきだと考えています。
(63ページ)
⇒☆まず教育予算の公的支出を、せめてOECD加盟諸国の平均並みに引き上げる必要があるのではないでしょうか?
日本ではギフテッド教育が、「エリートの選抜につながる」「子どもたちに悪影響を与える」「受験競争の早期化を招く」ものであるとみなされていることがよくわかります。
いや、それ以前に日本では、ギフテッド教育は単なる「教育上の例外措置」としかみなされていないことがよくわかります。 だから、日本ではギフテッド教育の整備が進まないのです。
(75ページ)
⇒☆この「教育上の例外措置」としか見なされていない現状を変えていくことが、今後の日本では特に必要になっていくと思います。
日本では「意図的な拒否」の形で不登校になった生徒が、小学校と、中学校と、高等学校の合計で9209人に上っていますが、彼らの中には、「授業が簡単すぎてつまらない」という理由で学校に通っていない(自宅または塾で学習している)人が高い割合で含まれると考えられています(不登校者の人数は、いずれも『平成26年度 児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査』(文部科学省、2015)より)。
(76ページ)
⇒☆「授業が簡単すぎてつまらない」という理由で学校に通っていない人が、「問題行動等の生徒指導上の諸問題に関する調査」の調査対象とされてしまう点が既に日本特有の問題点だと訴えたくなってしまいます。
ギフテッドスクールでは図13のような興味調査アンケートを全生徒に対して行います。その結果を基にしながら、選択科目や、学校設定科目(文部科学省の学習指導要領にはない学校独自の科目)や課外活動の内容を決定していきます。
(87ページ)
⇒☆生徒一人ひとりが、自分の興味に合ったカリキュラムを選択できる可能性が広がっていけば素敵ですね♪
①よく授業(講義)中に寝ていた方や、②実験・実習・部活動(課外活動)の時間になると急にやる気が出ていて方がたくさんいるはずです。読者の皆さんの中には、③授業中に教科書または参考書とにらめっこしていた方や、④文章言語・数字・記号を難なく扱うことができていた方がたくさんいるはずです。
ここでは①と、②のタイプを視覚空間型と、③と、④のタイプを視覚言語型と定義していますが、視覚空間型の人は、実際に手や、体を動かしながら学ぶことを得意としています。視覚言語型の人は、自分から本を読んで学ぶことを得意としています。
日本ではSLDや、AD/HDの人の大部分が視覚空間型の、ASDの人の大部分が視覚言語の特性を持っていると言われています。
(105ページ)
⇒☆なるほど!自分の情報処理の3タイプ(視覚空間型・視覚言語型・聴覚言語型)と発達凸凹(SLD・ASD・ADHD)との兼ね合いで、さらに細かくタイプが分かれ、それぞれのタイプに合った学習形式を選ぶことが大切ですね♪
視覚言語型の人は、講義形式よりも、探究形式の方が体質的に合っています。 つまり、一斉に教員の話を聴く時間を短くして、その分、図書室などで調べ学習をする時間を多く取る方がよいのです。
(中略)ただし、彼らの中には、他人とコミュニケーションを取るのが苦手な人がよくいるため、調べ学習だけでなく、あるテーマについて議論をさせたり、学習成果を大勢の前で発表させたりといった訓練を豊富に積ませる必要もあります。
(109ページ)
⇒☆なるべく早い段階からリベート(討論)、もしくは対話の形式について慣れさせるようにする。そしてその討論や対話をファシリテートする人材もこれからますます必要になってきますね。
近年の日本では、定時制や、通信制の高等学校が発達障害者の受け皿としての役割を担うようになっています。
文部科学省が行った調査によると、発達障害者の推計在籍率が定時制で全体の14.1%に、通信制で全体の15.7%に上っているといいます。
これは、全日制の推計在籍率(1.8%)の約8倍にもあります(発達障害者の推計在籍率は、いずれも『発達障害等困難のある生徒の中学校卒業後における進路に関する分析結果 概要』(文部科学省、2008)より)。
(131ページ)
⇒☆定時制や通信制の教職員が、発達障害に関する知識を持っておくことがこれからますます必要になっていきますね。
本章では「産業社会と人間」の必修化と、中学校への移行について提示しますが、この科目には、職業体験や、上級学校の見学や、ライフプランの作成などがカリキュラムの一環として実際に盛り込まれています。
そのせいか、日本ではこの科目を導入している高等学校の98.0%が、「生徒が将来の職業選択を視野に入れ、自己の将来の生き方・働き方や進路について考察することができている」と回答しています(『産業社会と人間に関する調査』(文部科学省、2009)より)。
この科目を高等学校から中学校に移行すれば、より早い段階で進路決定をさせることが可能になるのです。対象を高等学校の総合学科の生徒から全生徒に拡大すれば、各々の生徒が進路について、より深く考えるようになるのです。
(150ページ)
⇒☆中学校へ移行することによって、より早い段階で自分の特性との兼ね合いから進路決定をすることができますし、将来の見通しも立ちやすくなりますね♪
発達障害の子供を特別支援学校に押し込むこと自体が、インクルージョン教育(障害者と、健常者がともに学ぶ教育)の理念に逆行するものであると考えているからです。
日本は2014年に、国連(国際連合)が定めた「障害者権利条約」を批准していますが、この条約の第24条には、「障害者が、他の者と平等に、自己の生活する地域社会において、包容され、質が高く、かつ無償の初等教育の機会及び中等教育の機会を与えられこと」という一文があります。
要するに、普通の学校)特に市区町村立の小中学校)ではなく。地域から遠く離れた特別支援学校に押し込むことは、障害者を地域社会から隔離してしまうことでもあるわけです。
(164ページ)
⇒☆「みんなの学校」のモデルになった大空小学校が、インクルージョン教育の先駆モデルとして注目を浴びている背景がここにあるわけですね。
日本では知的障害者の平均月収が10万8000円に、精神障害者(発達障害者も含む)の平均月収が15万9000円に留まっているのが実情です。これは、常用労働者全体の平均月収(26万1000円)の4割から6割に過ぎません(常用労働者の全体のデータは『平成25年12月 毎月勤労統計調査』(厚生労働省、2014年)の、精神障害者と知的障害者のデータは『平成25年度 障害者雇用実態調査』(厚生労働省、2013年)をそれぞれ引用している)
(189ページ)
⇒☆この月収格差の現状も多くの人に知ってもらいたいと思いました!
日本では発達障害の診断を受けた学生の就職率が、たったの29.4%に過ぎないと言います(『平成26年度 大学・短期大学及び高等専門学校における障害のある学生の就学支援に関する実態調査』(日本学生支援機構、2014)より)。
(197ページ)
⇒☆日本学生支援機構がこのような調査を行っていたとは!得られたデータを元に、発達障害の有無によって奨学金の返還条件が緩和したりといった措置を期待したいですね♪
気づいた方も多いと思われますが、実は本質は、日本の社会システムそのもののアップデートと、発達障害当事者たちの団結を訴えることを主目的としています。
(252ページ)
⇒☆団結を訴えるために、日本の社会システムの問題点や、教育施策の改革案を提示しているのは素晴らしいです!今後は、いかに発達障害当事者たちや発達障害の当事者団体の団結、というか連携を図るかについて考えることが重要ですね♪
例えば、専門性が非常に高いものの、コミュニケーション能力が低いために、企業の内定が全く取れない発達障害者がいると仮定します。
その場合、対処法は①コミュニケーション能力を高めることと、②企業の採用方式そのものを変えることの2つに分けられますが、残念ながら日本には、①の方法を主張する文献(軽薄なハウツー本など)が吐いて捨てるほどあっても、②の方法を主張する文献(重厚な政策提言書)がほとんどないのが実情です
つまり、日本には「発達障害者を訓練(療育)によって周囲(大衆)に同化させよう」という発想しかないのです。 このような発想を大転換させるため、私は本質を、発達障害と診断された当事者を代表して書こうと決意した理由です。
(252ページ)
⇒☆今後は、企業の採用方式そのものを変えるためにも、当事者、企業、支援機関や専門機関、研究者などのステークホルダーが、対等の立場で対話・議論して、合意形成を図っていくことに注力していかなければなりませんね。
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